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方言というのは、今ではあまり意識されないものなのかもしれない。
それでも確かに言語のなかに息づいているもので、俺の場合それは一人称で顔をのぞかせる。
そう、「俺」である。
日本語とは面倒なもので、公の場所で使わない方がいい一人称というものが存在する。「俺」という呼び方はそれに含まれ、大人の前に出るときや改まった場では「私」や「僕」と言うことに慣れろと教え込まれる。
標準日本語としての「俺」というのは、男性が砕けた調子で自分のことを指す言葉に見えるが、我が郷里では老若男女に適用される一人称として発音される言葉なのである。俺の場合は、幼い頃に世話をしてくれた祖母の影響が大きい。
昨今、アイデンティティという言葉を使うのが好きな人が増えた。学校でもそのような教育はされる。
相手のルーツに配慮しましょう、バックグラウンドを尊重しましょう。
それを言った舌で、俺の一人称を否定され、標準的な形容の型に押し込まれるのだ。
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